慢性呼吸不全
ここでは,西新潟中央病院呼吸器センターで行われる,包括的呼吸リハビリテーションの教材をもとに,慢性呼吸不全患者さんが知っておくべき基本的な知識のほか,検査法・呼吸器療法などの情報が含まれています.
慢性呼吸不全の定義と原因疾
呼吸器症状について
理学療法
呼吸理学療法の目的
- 気道の浄化(痰を上手に喀出する)
- 呼吸の効率を改善する
- 呼吸筋を強化する
- 全身持久力をつける
呼吸理学療法の内容
肺気腫や肺結核後遺症,気管支拡張症など患者さんの疾患は多様です.また,呼吸機能障害のパターン(吐き出す力が衰えているのか,肺活量が低下しているのかなど)や,障害の程度,痰の有無などによっても理学療法の内容は変わってきます.
患者さんの状態によって,下記の中から必要なものを選択して行います.
- リラクゼーション:筋の緊張をほぐして,楽な呼吸を行えるようにします
- 呼吸訓練:呼吸の仕方(口すぼめ呼吸,腹式呼吸,下部胸式呼吸)を訓練することで換気効率が上がり,呼吸困難感や呼吸機能の改善がみられます.まず,臥位で始め,次第に日常生活のいろいろな動作でもこの呼吸ができるようにします.
- 呼吸筋訓練:呼吸に関係する筋肉の筋力と耐久力の向上を図りますが,筋肉疲労のある方は行いません.
- 胸郭可動域訓練:呼吸筋ストレッチ体操を行います.これにより,呼吸困難感の減少とともに,胸郭可動性が改善し,QOL(Quality of life)の向上にもつながります.
- 排痰訓練:痰が多い方に行います.また,術後の合併症予防にも行います.方法としては,体位ドレナージ,用手法(パーカッション,スクウィージング,バイブレーション),フラッターなどがあります.
- 運動療法:感染が増悪している状態や,心合併症が不安定な状態などでは行いません.やみくもに運動を行うのは避けましょう.医師と呼吸療法士・理学療法士の運動処方にしたがって行います.
動脈血酸素飽和度や心拍数をモニターしながら,それぞれの患者さんに合った運動負荷を加 えます.運動負荷としては,歩行,体操,トレッドミル,自転車エルゴメーターなどです.これによって,呼吸筋力の向上や,心肺機能の改善が得られ,呼吸困 難感の改善や,QOLの改善が得られます. - 日常生活動作(ADL)の指導:ADL とは日常生活の様々な動作たとえば,歩行や階段昇降,着替え,洗面,食事,排泄,入浴などをいいます.これらの動作をするときにも,呼吸の仕方(口すぼめ 呼吸,腹式呼吸,下部胸式呼吸)を忘れずに,ゆっくりと息を止めずに,休みを入れながら動作をすることを学びます.注意しながら動作をすると,動脈血酸素 飽和度の低下を少なくすることができます.
栄養療法
はじめに
慢性呼吸器疾患の患者さんに,やせ型の体型の人が多いことが知られています.肺気腫,肺結核後遺症,間質性肺炎の患者さんに占める栄養障害の頻度は,それぞれ,74%,60%,35%と高頻度です.栄養障害が進むと,筋肉量が低下し,さらに呼吸機能障害が進行するという悪循環に陥るほか,免疫能の低下を招き,感染に弱くなってしまいます. 一方,上記疾患に占める肥満の頻度は低いのですが,体が重いことによる負担や,運動不足,糖尿病の合併などは望ましくありません.いずれにしても自分にあった食事をすることが必要です.ここでは,やせや栄養障害のみられる方の栄養処方を提示します.肥満の方は,エネルギー制限食になりますが,ここでは割愛します.
高栄養であること
高エネルギー・高たんぱく・高ビタミン・微量栄養素を確保することが基本です.目標カロリーは2200から 2400kcalに設定します.しかし,多くの患者さんは,食事だけでこのカロリーを摂取することは不可能です.その場合は,栄養補助食品や,高栄養流動 食を併用することで,できるだけ近づけます.
低塩食であること
塩分は10g以下に設定します.心不全を合併している場合は,さらに減塩し,飲水制限をする場合があります.
食事量に注意する
一度に多量多飲をすると横隔膜を圧迫し呼吸運動に負担をかけます.一回摂取量を減らし一日5~6回に分けて食べるのが望ましいです.また,食事時間は規則的にすることが望ましいです.
消化しやすいものに
低酸素血症のために,消化管運動が低下している場合が多いです.消化しやすい食品を選び,消化しやすい調理方法をとります.
ゆっくりよくかんで食べる
食事の時に急いで食べる方は,動脈血酸素飽和度が低下していることがしばしばあります.また,急いで食べると胃の中に空気を飲み込んでしまい,おなかが張ることで,横隔膜の運動を制限してしまう恐れがあります.
食事環境
楽しんで食べられるような環境をつくりたいものです.食器に工夫をするだけで食欲もずいぶんと変わります.
便秘予防
朝食をぬかないように,また食物繊維もとりましょう.
香辛料・アルコール
いずれも少量は食欲を増す作用がありますが,多すぎは禁物.アルコールは,医師と相談してください.ただし,炭酸飲料(ビールなど)は消化管内でガスを発生するので,腹満につながります.やめた法がよいでしょう.