てんかんの診断と治療 第3版
1.てんかんとは?
- WHOによるてんかんの定義
- てんかんとは、さまざまな原因により起こる慢性の脳の病気で、大脳の神経細胞の過剰な活動に由来する反復性の発作(てんかん発作)を主徴とし、それに変化に富んだ臨床および検査の異常を伴うもの。
- 1)神経細胞の過剰な活動
- これに一致した脳波の変化を認めます。
- 2)反復性
- 一回の発作では、決しててんかんと診断されません。 同じ発作が繰り返し起こることが重要な条件です。 一回きりの発作を持つ人が、5年以内にもう1度発作を起こす危険性は33%ですが、2回目の発作を起こした人が次に発作を起こす危険性は73%と上昇します。 脳に器質的な異常が無ければ、1回きりの発作では治療の必要も無く、行動の制限も必要ありません。
- 3)慢性
- 例えば、脳挫傷などの頭部外傷のすぐ後にけいれん発作が見られても「てんかん」とは言えません。
- 4)発作
- 通常は短時間(秒あるいは分単位)の症状のことであり、けいれんを伴うことも、伴わないこともあります。 脳波でてんかん性異常波が認められても、発作が無ければ「てんかん」ではありません。
2.てんかんの原因
大きく分けると、脳に傷などの異常がある器質性の原因と、そうでない機能的な原因に分けられます。
- 1)器質性の原因:症候性てんかんと呼ばれるもの
- 例:分娩時の頭部外傷、先天性代謝異常、先天性奇形、乳幼児期の虚血、感染症、変性疾患、脳腫瘍、脳血管障害、など
- 2)機能的な原因:特発性てんかんと呼ばれるもの
- 遺伝子変異が見られるものもあります。
3.てんかんの発作症状
- 1)診断手順
- それは「発作」であるか?
- 「発作」であるならば「てんかん発作」であるか?
- どんな「発作」症状であるか?
- 2)発作症状の観察の留意点
- 発作の始まりがどうであったかを、よく観察することが大切
- 意識が失われるかどうか
- 運動症状の把握:頭部の回旋やけいれんの有無
- その他の発作症状:行動異常や精神症状など 持続時間
- 3)発作の起きた時間と状況
- 4)誘因はないか?
- 例えば、発熱、過労、精神的ストレス、睡眠不足、食事時間、宿酔い(二日酔い)、スポーツ、入浴、ゲーム、など
- 5)発作の様子はどうか?
- 6)発作時の処置について
4.発作型の決定とてんかん診断
- 1)発作型の決定
- てんかんの発作症状から発作型を診断し、脳波やMRIなどを参考にしててんかん発作の分類を行います。
- 2)てんかん発作の国際分類
- I. 部分発作
- 単純部分発作:意識の保たれる発作
- 運動症状を示すもの(回転、姿勢、運動、など)
- 感覚症状を示すもの(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、など)
- 自律神経症状(吐き気、発汗、立毛、顔面蒼白、など)
- 精神症状(既視体験、恐怖、巨視、音楽、情景、など)
- 複雑部分発作:意識の無くなる発作
- 単純部分発作から移行する
- 初めから意識が無くなる
- 二次性全般化:1) や2) からけいれん発作に移行するもの
- II. 全般発作
- 欠神発作:ボーとして短時間意識を失うもの
- ミオクロニー発作:身体の一部分ないしは全身の筋肉がピクンとするもの
- 間代発作:カクカクする発作
- 強直発作:突っ張る発作
- 強直間代発作:突っ張ってからカクカクする発作
- 脱力発作:筋肉の力が抜ける発作
5.診断に必要な検査
- 1)脳派
- 頭皮上のいくつかの点(前頭部、側頭部など)に左右対称に皿電極を置いて測定します。てんかんの診断には不可欠の検査です。
- 2)画像診断:MRI、CT、SPECTなど
- MRIとCT:撮影方法は異なりますが、脳の構造の変化を調べる検査です。 脳血管障害、腫瘍、形成異常、外傷など、てんかんの原因検索に有用です。 MRIの方が、CTより精度の高い情報が得られます。
- SPECT:静脈内に少量の放射性同位元素を注射し、それが脳の集まる現象を調べる検査です。 脳の局所の血流量に依存します。 てんかんの原因部位(焦点)は、発作の無い時には集積が低く、発作の最中には集積が高くなります(すなわち、血の気が多い状態に見えます)。
6.てんかんの薬物治療
- てんかんの薬物治療の原則
- 最も重要なことは、「てんかん」であることを正確に診断することです。てんかんという診断は、患者の将来の生活に対して医学的、社会的に大きな影響を与えます。
- てんかん患者の約80%が薬物によって発作が完全に抑制されますが、発作型によっては一定の年齢でほぼ完治するものもあります(例えば、小児良性部分てんかん)が、あらゆる薬物治療に抵抗性を示すような群もあります。従って、てんかんの発作型を確実に診断することが大切です。
- てんかんの分類、発作型が明らかな場合は、適薬を単剤(一種類のみの薬)で使用します。この時、発作が抑制されるまで薬を徐々に増量し、最大の耐用量まで使用します。また薬物の血中濃度を測定し、これを参考にして服薬量を調節します。
7.てんかんおよびてんかん症候群の基本的骨組み
てんかんという病気は、単一の疾患単位ではなく、大脳神経細胞の過剰発射による発作を主症状とするいくつかの疾患単位を集めものです。ですから、発作が薬物で抑制されやすい疾患から、薬物抵抗性の疾患まで広範囲に及びます。
てんかん及びてんかん症候群の分類の骨子を紹介します。
局在関連性 | 分類不能 | 全般性 | |
---|---|---|---|
特発性 | 特発性局在関連性 (小児良性部分てんかん、など) |
(特発性分類不能) | 特発性全般性 (小児欠神てんかん、など) |
潜因性 | 潜因性局在関連性 | 潜因性分類不能 | 潜因性全般性 |
症候性 | 症候性局在関連性 (側頭葉てんかん、など) |
症候性分類不能 | 症候性全般性 (大田原症候群、など) |