肺がんに対する治療

外科治療(手術)

肺がん

標準手術
臨床病期I~II期の患者さんに対しては、肺葉切除+リンパ節郭清の標準手術を行っています。また臨床病期III期の患者さんに対しては、縦隔リンパ節転移が限局している場合と、周囲臓器合併切除で完全切除が可能な場合に限って手術を行っています。

縮小手術
肺がんの大きさが2cm以下の患者さんに対しては、積極的縮小手術を行っています。

  1. 積極的部分切除
    胸部CT画像でいわゆる「すりガラス陰影」を示す患者さんに対しては、腫瘍部分のみを切除する部分切除を行っています。その際、必ず手術中に迅速病理診断を行っています。完全に切除できていることとがんの悪性度を判定してもらい、安全・確実に手術を終了するようにしています。現在まで40人の方が受けていますが、合併症の発生や再発は1例もありません。
  2. 積極的区域切除+リンパ節郭清
    「すりガラス陰影」を示さない大きさ2cm以下の肺がん患者さんを対象に行っています。標準手術とされる肺葉切除より小さい肺区域を切除し、周囲のリンパ節を郭清します。この場合も必ず手術中に迅速病理診断を行い、リンパ節に転移していないかを確認しています。現在まで60人の方が受けていますが、5年生存率90%程度で標準手術と同等の手術成績です。
  3. 消極的縮小手術(区域切除・部分切除)
    肺気腫、塵肺、間質性肺炎などの肺疾患や結核後遺症などのために肺機能が低下している患者さんに肺がんが発生することが多々あります。前述したように患者さん一人一人に対して最適な治療を考えますが、手術が最善と判断した患者さんに消極的縮小手術として区域切除・部分切除を行うことがあります。残念ながら再発率が高い手術になりますので、外来で厳重に経過観察していきます。

    注意点
    1.積極的部分切除 と 2.積極的区域切除+リンパ節郭清 については今のところ日本肺癌学会の「肺癌診療ガイドライン」では標準的外科治療と定められ ていません。そのため当院の倫理委員会で認められた臨床試験という形になっています。現在、1.積極的部分切除 については当科も参加した全国規模の臨床 試験(JCOG0804/WJOG4507L)の登録が終了し、その結果が待たれています。また2.積極的区域切除+リンパ節郭清 についても全国規模の 臨床試験(JCOG0802/WJOG4607L)に参加する形になっています。

胸腔鏡手術
現在臨床病期I期症例に限って胸腔鏡手術を行っています。胸腔鏡手術はあくまでも手術を行う方法であり、手術内容ではありません。手術の本質は手術内容であり、前述した標準手術・縮小手術に相当します。ただ同じ手術内容であれば、身体に負担の少ない方法で手術を受けたいという気持ちは皆同じです。当科では臨床病期I期の方に手術内容決定後、胸腔鏡手術可能と考えられる場合に勧めています(腫瘍の位置や技術的問題から全員には適応になりませんので、ご了解下さい。また出血などの不慮の事態が生じた場合も、速やかに開胸手術に移行しますのでご了解下さい)。

  1. 完全鏡視下手術(岡田医師が担当)
    胸腔鏡のみで手術を行う難易度の高い手術です。肺の状態がよく、手術しやすい患者さんに対象を絞って行っています。手術創は非常に小さく(最大でも5cm程度)、身体の負担も小さく、術後の疼痛も軽度です。
  2. 胸腔鏡補助下手術(渡辺医師が担当)
    胸腔鏡に小開胸を併用して行う手術です。脇の下に7cm程度の手術創をおいて胸腔鏡と自分の目を併用して手術を行います。条件の悪い患者さんにも応用可能です。完全鏡視下手術と開胸手術の中間に位置づけられる方法です。
    腫瘍の位置や肺の状態、および手術を受けられる患者さんの全身状態に応じて手術内容と手術方法を組み合わせて最善の手術を提供していきたいと考えています。 なお、開胸手術であっても開胸方法は多数あります。標準は後側方開胸ですが、こちらも患者さんの状態に応じて、胸骨正中切開、前側方開胸、前方腋窩開胸、腋窩開胸など、最善の開胸方法を選択しています。また筋肉温存開胸を併用し、低侵襲な手術を心懸けています。

    注意点
    胸腔鏡手術も今のところ日本肺癌学会の「肺癌診療ガイドライン」では推奨された手術を行う方法になっていません。臨床試験困難な領域であることから、開胸手術との比較は困難と考えられています。現実には日本のほぼ全ての呼吸器外科の専門施設で「肺がん手術を行う方法の一つ」として採用されています。

第2肺がん(異時性多発肺がん)

肺がん手術症例もI期症例が大部分を占めるようになりました。I期症例の5年生存率は80%を越え、多くの患者さんが肺がんを克服するようになってきました。それに伴い現在急速に問題になっているのが第2肺がんです。手術後の経過観察中に第2肺がんを発症される患者さんが急増しています。すでに1回手術を受けてますので肺機能が低下しています。そのため早期に発見し、適切な治療(手術・放射線治療・抗癌剤治療)を行うことが重要です。当院では1996~2010年の肺癌手術を受けた患者さんの約8%に第2肺がんを認めています。そのため術後の経過観察は5年までは3ヶ月ごと、10年までは6ヶ月ごと、10年以降も1年ごとに行うようにしています。

悪性胸膜中皮腫

アスベストとの因果関係が明らかな疾患です。胸腔の壁側胸膜・臓側胸膜を覆っている中皮細胞が腫瘍化して生じる疾患です。胸痛、呼吸困難で発症することが多く、また原因不明胸水の精査中に発見されることもあります。 当科では診断と手術を担当しています。 診断には局所麻酔下胸腔鏡検査が重要です。局所麻酔を行い、胸腔内に胸腔鏡を挿入して壁側胸膜・臓側胸膜を観察します。病変を確認した場合は生検を行い、十分量の腫瘍と胸膜組織を採取します。(肺がんと異なり、悪性胸膜中皮腫の胸水からは悪性細胞が検出されないことがほとんどです) 手術適応ありと判断された患者さんには、現在集学的治療を行っています。

  1. シスプラチン+ペメトレキセド(アリムタ)の化学療法2~3コースを内科入院で行います。
  2. 胸膜肺全摘術+リンパ節郭清
  3. 片側全胸郭照射

疾患そのものの予後が非常に悪く、手術適応のある患者さんは稀です。また胸膜肺全摘術は当院で行う手術の中でもっとも危険度の高い手術です。本当にこの治療が正しいのか、まだ議論されているのが現状です。上記の集学的治療の本邦の成績がもうすぐ明らかになりますので、その結果次第では、大幅に治療内容が変更される可能性もあります。

当院の肺がん手術症例数

2008年 53例
2009年 54例
2010年 61例
2011年 60例
2012年 68例

薬物療法

病期Ⅳに相当する肺がんでは、薬物療法が治療の中心になります。肺がんの薬物療法には、化学療法(いわゆる「抗がん剤」)、分子標的治療、免疫療法があります。患者さんの病状やがん細胞の性質に合わせて、もっとも適した薬剤を使用します。

進行肺がんの治療は年々進歩しています。有効な治療のなかった時代には、進行肺がんの患者さんは半年生きられないのが常識でした。ようやく1980年代から、肺がんに対する抗がん剤治療が始まりました。1990年代には、現在も現役で使用されている各種の抗がん剤の仲間たちがぞくぞく登場しています。

その後、21世紀に入って、分子標的治療薬、免疫療法といった新たな治療方法が開発され、現在に至ります。治療の難しいがんの代表である肺がんですが、この30年で治療は着実に進歩しています。21世紀の肺がん治療は、 一人一人の患者さんで発がんの原因になった遺伝子を調べ、それに合った治療を一人一人に合わせて考えていく「個別化医療」の時代になると思われます。

肺がんの治療については日本肺癌学会のホームページ(「一般の皆さまへ」の項)で詳しく紹介されていますので、ぜひご参照ください。私たちは、日本肺癌学会の指針に基づいた適正な診療を心がけております。

日本肺癌学会
https://www.haigan.gr.jp

1)化学療法(抗がん剤治療)

化学療法(抗がん剤治療)は、吐き気がしたり、髪の毛が抜けたり、といった「つらい」イメージが大きいでしょう。しかし、近年は「できるだけ楽に」治療を受けられるよう、さまざまな改善がなされています。抗がん剤の吐き気を抑えるための処置が進歩し、入院せずに通院で治療ができている方も多くおられます。抗がん剤自体も改良が進み、短い点滴時間で、脱毛も少なく、安楽に治療ができている方も少なくありません。

通院での抗がん剤治療については、こちらを参照してください。

2)分子標的治療

肺がんの「分子標的治療」は、がん細胞の「アキレス腱」とでもいうべき急所を直接攻撃するような薬剤です。がん細胞だけを「狙い撃ち」するように開発されており、正常の細胞への毒性は少ないことが多いです。ただし、誰にでも効くわけではありません。薬が適合するかどうかの判断には、がんの病巣からがん細胞の塊を採取する必要があります。細胞の「遺伝子検査」を行って、適合した患者さんだけに効果が期待できます。

「EGFR遺伝子変異」という遺伝子異常で生じた肺がんには、タグリッソ(一般名オシメルチニブ)という分子標的治療薬(内服薬)がよく効きます。

3)がん免疫療法

肺がんの「免疫療法」は、近年の進歩がめざましいです。オプジーボ(一般名ニボルマブ)、キイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)、テセントリク(一般名アテゾリズマブ)の3種類が進行肺がんに使用が認められています。

免疫療法は、効果が出る人と出ない人が大きく分かれます。非常に良く効く人では、年の単位で肺がんが抑えられ、治療を続けながら安楽に過ごせる場合があります。免疫療法が効きやすいかどうかの判断には、がんの塊を採取してPD-L1という成分の発現率を参考にします。

近年は、化学療法(抗がん剤治療)と免疫療法を同時に実施する方法が認可されました。体力があり、副作用に耐えられると判断された人で実施しています。

4)緩和治療のことなど

以上、近年の肺がん薬物治療には、めざましい進歩がみられています。 しかし、これらの恩恵をすべての患者さんが受けられるわけではありません。実際には、高齢であったり、持病があるなどの理由から強力な薬物療法を受けることのできない患者さんが少なくありません。体が弱く、じゅうぶんな治療が受けられない患者さんには、がんの痛みや苦痛を軽減するための「緩和治療」が行われます。

また、各種の治療を受けて一時的にがんを抑えることができたとしても、多くの患者さんでは、いずれ肺がんの「再発」が起こり、病状は悪化します。これらの方々にとっても緩和治療は重要な意味を持ちます。 当院は、積極的な治療以外に緩和治療にも力を入れています。

放射線治療

緩和医療

肺がんの新薬が次々に出てきたとはいえ、すべての患者さんに期待通りの効果が出るわけではありません。肺がんは依然として難しい病気であり、治癒に至る患者さんは限られています。残念ながら、既に進行した肺がんを「治す」ことはできません。それは、本当につらい現実です。

進行肺がんで闘病を続ける患者さんの中には、終末期にホスピス施設に転院して療養をされる方もおられます。しかし、一方では、これまで馴染んだ病院で、慣れ親しんだメディカルスタッフたちのもとで療養したいという方もいらっしゃると思います。

当院には緩和ケア病棟やホスピスは設置されていませんが、通常の診療の一部として緩和治療にも力を入れており、がんの痛みの症状緩和などに努めていま す。在宅療養中のがん患者さんに対する在宅支援(訪問診療・訪問看護)にも取り組んでいます。

患者さんとは長いお付き合いになることが多いですから、長い闘病の中で、少しでも穏やかな時間を過ごしていただければと、季節ごとの慰安行事も欠かしません。

進行した肺がんの治療は、本当に難しいと思います。何が最良の方法なのか、悩むことは多いです。難しい問題は山積みです。ただ、途方に暮れていてもどうにもなりませんから、まずは目の前の患者さんのために、少しでも良いと思われることをさせていただこうと日々格闘する毎日です。

緩和ケアについて

緩和ケアとは、患者さんの身体や心のつらさを和らげ、生活やその人らしさを大切にする医療です。今までの医療の考え方では「病気を治す」ということに関心が向けられ、患者さんのつらさに対して充分な対応ができていませんでした。しかし、最近では、患者さんがどのように生活していくのかという「療養生活の質」も、「病気を治す」ことと同じくらい大切なことと考えられるようになってきています。

当院でも、がん診療推進チームが中心となって緩和ケアの普及や実践を行っています。患者さんに自分らしく質の高い生活を送っていただけるよう、チームが協力してケアを行なっています。

治療を受けることに不安を抱く患者さんからお話を伺い、前向きに取り組めるようにご指導申し上げたり、ご家族の方の心配ごとのご相談に乗らせていただいたり、単に痛みの治療だけではなく、療養生活全般についてのお手伝いをさせていただいております。

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